アフタヌーンティーといえばイギリスの代表的な伝統文化として有名ですが、実はイギリスの長い歴史の中ではまだ比較的「新しい文化」であると言えます。
在宅ワークが当たり前になりつつある今、人との関わりも少なくなっています。
ときには、仕事仲間と優雅にアフターヌーンティを楽しみながら打合せ、なんてのも気分転換になりそうですね。
アフターヌーンティーの歴史を紐解きながら、日本でも気軽にイギリス気分を楽しめるお店も、いくつか紹介します。
アフターヌーンティーの歴史
お茶を飲む習慣は、紀元前3千年の中国ですでに始まっていましたが、イギリスでは1660年代、当時の国王チャールズ2世とその妻でポルトガル人のインファンタ・ド・ブラガンザによって広めらました。
そして、いわゆる「アフターヌーンティーを楽しむ」という習慣が生まれたのは、さらに後、19世紀半ばになってからのことです。

1840年頃、アフターヌーンティーが初めて紹介される
この時代、特に農村地域では日の出と共に一日が始まり、日が沈むと終わるのが普通でしたが、イギリスでは都市化や工業化が進み、特にガス灯などの発展もあって、裕福な階層では日の出、日の入りにとらわれない生活が習慣化し、それに伴い夕食の時間もどんどん遅くなっていったといいます。
正午に昼食をとり、夕食は午後8~9時頃と遅いため、その間に空腹になってしまいます。
これを不満に思っていたのがヴィクトリア女王の侍女の一人であるベッドフォード公爵夫人アンナ・マリア・ラッセルでした。
昼食と夕食との間の長い空白時間にたいそう滅入っていた彼女は、あるときお茶とパンとケーキを夕方に部屋に持ってくるよう頼みます。

John Cochran (fl. 1825–1854), after George Raphael Ward, The Most Noble Anna MariaMarchioness of Tavistock. Stipple, etching and engraving, c. 1820–1834.
これを機に、上流階級の人々の間でこのおしゃれな習慣「アフターヌーンティー」が拡がり、やがてそれはイギリス全土へと拡がっていきます。
ただし、この頃のイギリスでは今のように紅茶ではなく、コーヒーのほうが多く飲まれていたようです。
イギリスと言えば「紅茶」のイメージがあまりにも強いので、アフターヌーンティーの始まりはコーヒーのほうが主流だったとは意外ですね。
紅茶はイギリスでは高価な飲み物だった
イギリスの紅茶は、1600年代にチャールズ2世とポルトガル人の妻、キャサリン・ド・ブラガンザによって初めてイギリスで普及し、アフタヌーンティーが登場するよりも数百年も前から飲まれていましたが、当時のイギリスでは紅茶はとても高価なものでした。
輸入するにも119%という衝撃的に重い税金が課せられ、また、東インド会社が貿易を独占していたので、一部の裕福層の人たちだけしか紅茶を購入することができなかったのです。

やがて、イギリス社会のあらゆる層の家庭にも紅茶を飲む文化は深く根付いていきましたが、それでも富裕層と一般家庭の紅茶のたしなみ方には少し違いがありました。
それは、テーブルウェアです。
富裕層が飲む紅茶には、高級磁器のティーカップやソーサー、装飾用のティーポット、マホガニー製の茶筒、シルバー食器、精巧なテーブルリネンなど、さまざまなアクセサリーが添えられていました。
彼らにとってアフタヌーンティーの席は、華やかで洗練されたものであり、自分らしさや趣味嗜好を表現する場でもあったようです。
上流階級や社交界の女性たちは、長いガウンと手袋、帽子に着替えて、4時から5時の間に客間で出されるアフタヌーン・ティーに参加していました。
スコーンと紅茶を楽しむクリームティー
伝統的なアフタヌーンティーは、サンドイッチ、スコーンにクロテッドクリームとジャムを添えたもので、ケーキが添えられているものもあります。
そして、アフターヌーンティーと並んでイギリスで愛されているのが「クリームティー」と呼ばれるスコーンと紅茶のセットです。
クロテッドクリームが先? それともジャムが先?
スコーンと紅茶のセットを注文するときは「Can I have a cream tea?」でOKです。はじめて本場イギリスのカフェでスコーンを食べようとしたときに、注文の仕方がわからず戸惑ったのを思い出します。
普通はスコーンと紅茶をそれぞれ注文するのかと思ってしまいますよね。

それはさておき、このスコーンには永遠の食べ方論争が存在するのをご存じでしょうか?
スコーンは横の割れ目から二つに割って、そこにクロテッドクリームとジャムをたっぷり乗せていただくのが伝統的な美味しい食べ方なのですが、このクロテッドクリームとジャムを乗せる順番が問題なのです。
クロテッドクリームにはコーンウォール地方とデヴォン地方、それぞれの名産品で、それぞれの地域ごとに食べ方が異なります。
コーンウォールでは「ジャムでクリームを隠してしまうなんてもってのほか!」と、ジャムをぬった上にクロテッドクリームを乗せますが、一方のデヴォンでは「クリームを先にのせたほうが、沢山のせられるじゃないか!」と、クロテッドクリームをぬってからその上にジャムをのせます。
両者とも一歩も譲る気配はなく、この論争はまだまだ続いていきそうです。
「ミルク・ファースト!?」ミルクティーの秘密
そしてもうひとつ。みなさんはミルクティーを入れるとき、ミルクを先に入れてから紅茶を注ぎますか?
それとも紅茶を先に注いで、ミルクは後から入れますか?たいていの人は後者ではないかと思います。私もそうです。
イギリスで暮らしてはじめて知ったことのひとつが、このミルクティーの入れ方でした。
イギリスでは前者、つまり①ミルクをたっぷり入れ、②そこへ紅茶を注ぐ、というのが正式なミルクティーの入れ方なのだと知り、とても驚きました。

この「ミルク・ファースト」には、ちゃんと理由があります。
現代にはあまり実用的とは言えないかも知れませんが、少なくとも前世紀には、ミルクを先に入れることはとても実用的な機能を備えていました。
18世紀から19世紀のイギリスの高級磁器カップやティーボウルが、紅茶を注ぐことによって急激な熱で割れてしまわないよう、まず先に冷たいミルクを入れる必要があったわけです。
現代では熱に強い頑丈なマグカップや磁器がありますから、あえてミルク・ファーストである必要はないかも知れませんが、私がイギリスで暮らしていた時には、今でもその順番でミルクティーを作る人をよく見かけました。
それよりも何よりも、イギリスの人たちの入れるミルクティーはとにかくミルクの量が多いです!そっちのほうが驚くかも知れません。(笑)
伝統的なアフターヌーンティーを楽しむ
ロンドンの一流ホテルや老舗カフェなどでは、伝統的な本格的アフターヌーンティーを楽しむことができます。また、日本国内でも英国スタイルのアフターヌーンティーを味わうことができるスポットやホテルラウンジが多くありますので、いくつか紹介します。
ブリティッシュヒルズでイギリス体験

ブリティッシュヒルズは、7万3000坪の敷地に英国式マナーハウスを中心にホテルやティールーム、パブなど12〜18世紀の建物が立ち並ぶ、英国の街並みを模した施設です。
この施設は経営母体が神田外語グループということもあり、語学研修施設としての機能を併せ持っています。英国の街並みに立ち並ぶホテルに宿泊しながら、ネイティブ講師との英語漬けの時間を過ごすことができ、短期集中で英語を学びたい人、留学気分を味わってみたい社会人にも人気の施設です。
この一角にあるのが「アスコット」というティールーム。英国風の落ち着いた雰囲気の中で、本格的なアフターヌーンティーやクリームティーを楽しむことができます。平日の日中はほとんどお客さんがいないので、貸し切り状態と言っても良いくらいの穴場スポットです。

ゆったり紅茶とスコーンをいただきながら、静かに読書を楽しんでいる人も見かけます。
アフターヌーンティーやクリームティーだけでなく、英国伝統のサンドウィッチ、ビクトリアンケーキ、ミートパスティ など様々なトラディショナルメニューを楽しめます。
少々山奥に位置しているため、最寄駅からは自家用車かシャトルバスを利用しないと行かれず、気軽に足を運ぶことは難しいとは思いますが、イギリス好きにはたまらないお勧めスポットなので、機会があればぜひ足を運んでみてくださいね。
ブリティッシュヒルズ「アスコットティールーム」
[住所]福島県岩瀬郡天栄村大字田良尾字芝草1-8
[営業時間]10時~17時30分(L.O. 16時30分)
[定休日]なし
[アクセス]こちら を参照
[料金]2,600円(税別・サービス料込)
公式HP https://www.british-hills.co.jp/stay/ascot.html
本場ロンドンでアフターヌーンティーを楽しむ
クラリッジズ(Claridge’s)
Traditional Afternoon Tea £75
公式HP https://www.claridges.co.uk/
ドーチェスター(The Dorchester)
Traditional Afternoon Tea £70
公式HP https://www.dorchestercollection.com/en/london/the-dorchester/
サボイ(The Savoy)
Traditional Afternoon Tea £65
公式HP https://www.thesavoylondon.com/
リッツ(The Ritz London)
Traditional Afternoon Tea £62
公式HP https://www.theritzlondon.com/
ハロッズ(The Harrods Tea Rooms)
Traditional Afternoon Tea £62
公式HP The Harrods Tea Rooms | Harrods UK
フォートナム・アンド・メイソン(Fortnum & Mason)
Traditional Afternoon Tea £70
公式HP https://www.fortnumandmason.com/diamond-jubilee-tea-salon
日本国内でアフターヌーンティーを楽しむ
マンダリン オリエンタル 東京
[住所]東京都中央区日本橋室町2-1-1 マンダリン オリエンタル 東京 38階
[アフタヌーンティーの営業時間]12時~17時30分
[定休日]なし
[アクセス]地下鉄東京メトロ銀座線・半蔵門線「三越前」駅(A7・A8出口)直結
[料金]4,800円(税別・サービス料別)~
公式HP https://www.mandarinoriental.co.jp/tokyo/nihonbashi/fine-dining/lounges/oriental-lounge
ザ・ペニンシュラ東京 「ザ・ロビー」
[住所]東京都千代田区有楽町1-8-1 ザ・ペニンシュラ東京1階
[アフタヌーンティーの営業時間]13時~21時
[定休日]なし
[アクセス]東京メトロ日比谷線・千代田線・都営三田線「日比谷駅」A6・7出口直結、東京メトロ有楽町線「有楽町駅」A6・7出口直結
[料金]5,400円(税別・サービス料別)~
公式HP https://www.peninsula.com/ja/tokyo/hotel-fine-dining/the-lobby-afternoon-tea
帝国ホテル 東京 「インペリアルラウンジ アクア」
[住所]東京都千代田区内幸町1-1-1 本館17階
[アフタヌーンティーの営業時間]11時30分~18時(ラストオーダー)
[定休日]なし
[アクセス]【JR】「有楽町駅」より徒歩5分、「新橋駅」より徒歩7分【地下鉄】「日比谷駅」より徒歩3分、「銀座駅」より徒歩5分、「有楽町駅」より徒歩7分、「内幸町駅」より徒歩3分
[料金]5,346円(税込・サービス料込)~
公式HP https://www.imperialhotel.co.jp/j/tokyo/restaurant/imperial_aqua/index.html
パレスホテル東京 ラウンジバー 「プリヴェ」
[住所]東京都千代田区丸の内1-1-1 6階
[アフタヌーンティーの営業時間]14時~16時30分、17時30分~18時30分 ※席は2時間まで、夜の部のみ2組限定(要予約)
[定休日]なし
[アクセス]「東京駅」丸の内北口より徒歩8分「大手町駅」C13b出口より地下通路直結
[料金]3,900円(税別・サービス料別)~
公式HP https://www.palacehoteltokyo.com/restaurants-bars/afternoontea/
フォーシーズンズホテル丸の内
[住所]千代田区丸の内1-11-1 パシフィックセンチュリープレイス フォーシーズンズホテル丸の内 東京 39F
[アフタヌーンティーの営業時間]11:00~18:00(L.O.17:30)
[定休日]なし
[アクセス]JR「東京駅」八重洲南口より徒歩3分
[料金]8,800円(税別・サービス料込)
公式HP https://www.fourseasons.com/jp/otemachi/dining/lounges/the-lounge/
ザ・リッツ・カールトン東京 「ザ・ロビーラウンジ」
[住所]東京都港区赤坂9-7-1 東京ミッドタウン 45階
[アフタヌーンティーの営業時間]12時~17時
[定休日]なし
[アクセス]大江戸線「六本木駅」より徒歩5分、日比谷線「六本木駅」より徒歩7分
[料金]9,400円(税別・サービス料込)
公式HP https://lobbylounge.ritzcarltontokyo.com/
リーガロイヤルホテル東京 「ガーデンラウンジ」
[住所]東京都新宿区戸塚町1-104-19 リーガロイヤルホテル東京 1階
[アフタヌーンティーの営業時間]14時~18時
[定休日]なし
[アクセス]東京メトロ東西線「早稲田駅」3a出口より徒歩7分、東京メトロ有楽町線「江戸川橋駅」1b出口より徒歩10分、都電荒川線「早稲田駅」より徒歩3分、「高田馬場駅」より無料シャトルバスで約10分
[料金]通常5,000円、オンライン予約4,800円(税別・サービス料込)
公式HP https://www.rihga.co.jp/tokyo/restaurant/list/garden_lounge/sweets
ホテル椿山荘東京 「ル・ジャルダン」
[住所]東京都文京区関口2-10-8 ホテル椿山荘東京 ホテル3階
[アフタヌーンティーの営業時間]12時~L.O.18時
[定休日]なし
[アクセス]東京メトロ有楽町線 「江戸川橋駅」1a出口より徒歩約10分
[料金]5,450円(税別・サービス料込)
公式HP https://hotel-chinzanso-tokyo.jp/restaurant/jardin/
まとめ
イギリスの伝統文化として、あまりにも有名なアフターヌーンティー。その歴史は意外にも18世紀になってから生まれた、比較的新しい文化であることがわかりました。
ま、新しいと言っても、21世紀の現代を生きている私たちからしてみれば、数百年前の出来事ですから、「大昔」からの伝統と言えなくもないですが。(笑)
まだまだ自由に海外を行き来できる日が来るのは先のはなしになりそうですが、日本国内でもイギリスの味を楽しめるカフェはたくさんあります。
慌ただしく過ぎていく日常や、色々なことにストレスを抱えることが多い今の世の中、いつもと「ちょっとちがう」雰囲気を感じるだけで、気持ちがリフレッシュできたり、リセットできたりするものです。
ときにはゆったり、優雅にアフターヌーンティーを楽しんでみてはいかがでしょうか。