エリザベス2世が亡くなった直後から、王室メンバーが公の場に姿を現す機会が増えました。
彼らが安全に王族としての仕事をこなす上で、ボディーガードは欠かせない存在です。
エリザベス2世の崩御に伴う多くのセレモニーの中で、テレビに映し出される群衆と葬列の様子や、国民とオープンに触れ合う王族たちの姿を見ながら、どのように安全が保たれているのかがとても気になります。
そこで、英国王室を護衛するボディガードの存在について調べてみました。
知られざる王室警護のあれこれ
王室に仕えるボディーガードは、最高位の王室メンバーのために24時間体制で警備を行っています。
また、王室の仕事で移動する王族の移動などの警備も行います。
今回のような葬儀や戴冠式などの大きなイベントの警備を、計画の段階から実施までのすべてを担うのも王室のボディーガードです。
ロイヤルボディーガードの歴史は古い
イギリス王室の公式サイトによれば、イギリスで最初に公にボディガードと称されたのは、1509年、ヘンリー8世によって結成された「The Honorable Corps of Gentlemen at Arms」とのこと。
当初は、平時や戦時であるにかかわらず、君主を護衛するために作られたといいますが、現代においての役割はガーター勲章の行事や議会開会式などの伝統的な公的儀式において、君主を護衛することが彼らの役割とされています。
ロイヤルガードのメンバーは赤い制服を着ており、背の高いクマ皮の帽子をかぶっている、お馴染みの兵隊さんたちです。
王室には、このロイヤルガード以外にも、警視庁が管轄している個人警護官も配属されていて、ロイヤルファミリーの公私に渡る警護を担っているとのことです。
いわゆるSPにあたるのが、この警視庁の警護官ですね。
王室メンバーにはコードネームがある
警護を担当するメンバーの中で警護対象者に「コードネーム」がつけられているというのをご存知でしょうか?
もちろん、それがどのような名前であるかはトップシークレット。
一般に知られることはほとんどありません。
この「コードネーム」について興味深いのは、その決め方です。
イギリスのDaily Mailが報じているところによると、イギリスの王室警護においてコードネームを決めるのは王室ではなく、王室のボディーガードであるというのです。
ハリー王子とメーガン妃がまだ現役の王族だった頃、彼らのコードネームは「デビッド・スティーブンス」と「ダヴィーナ・スコット」だったそうです。
ウイリアム皇太子とキャサリン妃は、かつて「ダニー・コリンズ」と「ダフネ・クラーク」というコードネームだったとか。
これらのコードネームは、口頭で何かを伝えるためと言うよりは、側近やボディーガードの携帯電話の連絡先リストなどで使われることが多いようです。
Daily Mailに掲載されている情報筋という人の話によると、「もし誰か第3者が、王室の側近やボディーガード、セキュリティチームのメンバーの携帯電話を手に入れたとしても、その中にハリー王子やメーガン妃の名前を見つけることはできないでしょう」と。
このコードネームは、いわゆる暗証番号と一緒で、あらかじめ悪意ある人たちに渡ってしまう場合を想定し、定期的に変更されているといいます。
最も重要なのは「計画」

元王室警備官であるサイモン・モーガンさんによると、王室警護の任務で最も重要なのは、速い車でもなく、力の誇示でもなく「計画」こそがすべて。
彼の毎日は、ほとんどの時間を護衛対象者の行事出席や旅行などの護衛計画に費やされていたそうです。
「もしも私を1日尾行するとしたら、警護計画に関する無数の会議、出張、電話連絡、そしてその計画が機能するかの議論をする更なる会議を見ることになりますよ。」
モーガンさんは「ボディーガードは思考のプロセスである」とも語っています。
王室の海外遠征を計画するのには、数ヶ月から数年かかるとのこと。
エリザベス女王のように護衛対象者が高齢の場合は、さらに医療上の問題も考慮しなければなりません。
王室のボディーガードは、訪問先から最も近い医療施設を確実に把握し、そこへ行くための最も効果的なルートを最低でも3つは計画しているのだそうです。
最難関は一般市民との触れ合いタイム
王室のボディガードにとって最難関のひとつが、王族が一般市民と触れ合う10分から15分ほどの時間であるといいます。
どれだけ緻密に計画を立てていても、一般市民との触れ合うわずかなその時間の中で、実に多くのハプニングが起こり得るというのです。
エリザベス女王の死後、ウィリアム皇太子夫妻、ハリー王子夫妻がウィンザー城のロングウォークに集まっていた市民たちと触れ合っていましたが、通常の3倍近い時間をかけていたといいますから、このときの王室護衛官のストレスは相当だっと想像します。
また、ウエストミンスターホールに安置されている女王の弔問に並ぶ行列を、予告なしでチャールズ国王とウィリアム皇太子が訪問した様子も伝えられましたが、この裏で王室警護の人々がどれだけの神経をすり減らしていたか … と想像すると、頭が下がりますね。
すべての王室護衛官が武装しているわけではない
ほとんどの王室護衛官は何らかの形で武装しています
彼らのほとんどが軍用の標準的な銃を携帯しているといいますが、しかしながら、これまでにはその携帯した銃による事故も起こっています。
BBCニュースは、2000年、エリザベス2世、フィリップ殿下が乗ったロイヤルトレインに帯同していたロイヤルガードが、誤って2回銃を発射してしまったと報じました。
ロイヤルガードが誤発砲した食堂車から、わずか2両離れたところにエリザベス女王とフィリップ殿下が寝ていたといいます。
この護衛官は直ちに職務を解かれ、原因調査が行われたといいます。
また、その前年1999年にも、ロイヤルガードが銃弾を空にしようとして誤って発砲、弾丸がセント・ジェームズ宮殿周辺に跳ね返った後、階下の窓を割るという事件が起きています。
そうした経緯もあり、2020年には一部の王室ボディガードから従来の銃を廃し、テーザー銃やスタンガンに置き換えられたと報じられました。
遠距離から撃てるスタンガンで、内部に高圧電流を流せる電極を内蔵しており、敵に直接電極を撃つことによって電流を流します。電極には針がついていて当たった人に刺さりそこから電気が流れます。
ただし、故エリザベス2世、チャールズ国王、ウィリアム皇太子といった王位継承上位にある王室メンバーの護衛には、依然として従来の銃を携帯させているようです。
王位継承順位の低い王室のメンバー(アン王女、アンドルー王子、エドワード王子、ハリー王子など)のボディガードは拳銃を携帯しておらず、英国内でも、これには賛否両論が寄せられています。
護衛官の多くは、スタンガンの効力について懸念を表明したといいます。
イギリスで銃が使われることはほとんどないものの、銃の携帯が、人ごみの中では有効な抑止力となっていると感じた護衛官もいたようです。
女王のボディーガードって
女王の元身辺警護官であるリチャード・グリフィンさんは、2022年6月のエリザベス女王のプラチナジュビリーの際、女王と過ごした楽しい時間を Sky News に語っています。
エリザベス2世は無類のジョーク好き

エリザベス女王とグリフィンさんは、スコットランドのバルモラルにいました。
女王はグリフィンさんを伴って、長時間の散歩に出かけました。
エリザベス2世はこうしてよくグリフィンさんを、城内のピクニック(お散歩)に誘っていたといいます。
そのお散歩の途中、二人のアメリカ人観光客に出くわしました。
その観光局は、エリザベス女王に気づいていません。
彼らのひとりが、「この近くに女王が住んでいるらしい」と言い、女王とグリフィンさんに「あなたたちは女王陛下に会ったことがありますか?」と尋ねました。
そこで、エリザベス女王はこう答えました。
「そうですね、私は会ったことがありませんが、ここにいるグリフィンさんはよく彼女に会いますよ」と。
これに対して観光客は、女王のボディガードである グリフィンさんと一緒に、ポーズをとって写真を撮ってくれるように頼んだといいます。
すると、グリフィンさんは「レディも一緒に写真を撮りましょう」と、さりげなく声をかけ、女王も一緒に写真におさまりました。
観光客がその場を去った後、女王とグリフィンさんは笑い合い、女王は、自分たちの正体をよく知る人が今の写真を見たらどんな反応をするだろうかと、ハエにでもなって見に行きたいと話していたそうです。
なんとも可愛らしい、エピソード。
その場で身分を明かさないのも素敵じゃないですか。
ふたりのアメリカ人観光客のその後が女王じゃなくても気になりますね!
このエピソードを語ったグリフィンさんは、長年にわたってエリザベス女王の王室護衛官を務め、彼の退官パーティーには、女王も出席したようです。
持ち回りの任務を持つ王室ボディガードも
2017年、エリザベス女王の警護部隊は女王の心配をよそに、より頻繁に持ち場を交代するようになりました。
しかしながら、女王のボディガードがローテーションしすぎると、女王が不快なときや、助けを必要としているときに気づきにくくなるのではないかという心配の声が多く上がったようです。
王室警護の仕事の多くは、王族からの「非言語的な合図」を自ら観察して行動することであるため、あまりに頻繁に護衛官を交代させると、その親密さが失われるのではないかという懸念が多く寄せられたのです。
そもそもなぜこのような変更が行われたのか。
その理由は、王室の警備を担当する部署においてリストラが行われたことでした。
これには、多くの上級士官たちも不満を漏らしているようです。
王室警護は、個人的な王族本人との関係性を築くことが重要であり、5分ごとに新しい顔ぶれが入れ替わるようでは、一体どうやってそれを実現できるのか、と。
女王とグリフィンさんとの心温まる関係性を考えると、このような反発が出るのもわかる気がしますね。
まとめ
日本でも、安倍元総理の不幸な死をきっかけに、要人警護の問題が大きく報じられています。
こうして調べてみると、英国王室の警護の裏にも、我々の知らない様々なことがあるんだな~と、改めて勉強になりました。
いずれにしても、自らの命を張って要人警護にあたっているボディガード、SPの皆さんには頭が下がります。
エリザベス女王の葬儀が間もなく始まります。
この国家行事の裏でもどれだけの緻密な警護計画がなされているのか・・・
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