2022年3月7日、英国オックスフォード大学の研究チームは、新型コロナウィルス(COVID-19)に感染した人と感染していない人のそれぞれの脳をスキャンして比較したところ、両者の間に著しい違いを発見したと学術誌『ネイチャー』に発表しました。
オミクロン株は感染力が非常に強く感染者数を急激かつ大幅に上昇させましたが、デルタ株の流行時に見られたような症状の重症化は比較的少ないのが特徴で、のどの痛みや、咳、鼻水などの風邪症状に似て比較的軽度であると言われています。
しかしながら、今回の研究結果によれば、軽い症状であったとしても感染そのものが人間の「脳」にダメージを与える可能性があると言うのですから、何とも気になります。そこで、この研究結果について調べてみました。
最も影響を受けるのは『嗅覚』を掌る脳の領域

この研究は、51歳から81歳の英国人785人を対象に、主に新型コロナウィルスα変異型が最も優勢だった時期の感染前後にそれぞれの人の脳をスキャンしたところ、多くの人において感染後に脳の体積が減少しており、感染しなかった人に比べて認知テストの結果が悪くなっていることが分かったというものです。
脳に大きな変化が見られたのは、入院が必要なほどの重症者ではありましたが、比較的軽症の感染者においても脳へのマイナスの変化がありました。
そして、影響を受けたとされる脳の領域のなかで、最も顕著であったのは『嗅覚』に関連する部分であったといいます。
この嗅覚障害については、新型コロナウィルスが拡がりを見せた際に特に多く報告されていた代表的な症状ですから特に驚くことではないかも知れません。
ただ、数カ月に渡り嗅覚障害の回復が見られない事例も少なくなく、神経科学者でオックスフォード大学の主任研究員である Gwenaëlle Douaud 氏によると、長期間にわたって嗅覚を失った人は、脳の嗅覚に関連する領域の容積も減少する傾向があるとのことです。
とはいえ、嗅覚さえ戻ればそれら脳の領域は回復が可能であるということなので、一般的な症状として嗅覚障害が回復したならば、それほど心配する必要はないのかも知れません。
嗅覚障害の少ないオミクロン株、心配しなくても大丈夫?
一般的に、嗅覚と関連する脳の領域については『記憶』を扱う部分と非常に近い位置にあるため、嗅覚の喪失はパーキンソン病やアルツハイマー病などの精神疾患の前兆としても扱われるそうです。
新型コロナウィルスが実際どのように脳に変化をもたらすかについて、現時点においては明確な答えは見つかっていません。
ウイルスが脳に入り込むことや、あるいは体内で炎症や免疫反応を起こして、それが間接的に脳に影響を与える、といったことと関係があるのではないかと 前出の Douaud 氏は考えていると言います。
また、まだそれを証明するだけの十分な証拠があるわけではありませんが、オミクロン株の変異型は比較的『嗅覚』への影響が小さいとされ、罹患者の
脳にそれほど多くの物理的変化を引き起こすものではないとも考えられています。
ただ今後、新型コロナウィルスが長期的に脳に与える影響については、まだまだ分からないことが多く不確定要素が残っている状態ではあります。
新型コロナウィルスに罹患した人たちが、この先の年月を重ねることでどのように変化するか、専門家の間でも見解が分かれているようです。
今回の研究では高齢者の脳により多くの変化が見られたため、若い人が感染してもダメージが少ないかもしれないと考える専門家もいますが、一方で、キプロス大学の神経科学者ジョージ・ヴァヴーギオス博士は、特に、感染後に嗅覚の喪失や障害を訴える人の多くが、実は、若くて健康な人が多いという事実もあり、やはり「若いから安心」というわけでもなさそうです。
また、ヴァヴーギオス氏の外来診察では、アルファ、ベータ、デルタ、オミクロン、いずれの型に感染した場合でも、脳に関する違和感を訴える患者の数には差はなかったそうなので、比較的症状が軽く、嗅覚への影響が少ないとされているオミクロン株でも油断は禁物です。
新型コロナウィルス 脳への影響、まとめ
脳は非常に回復力が強いため、新型コロナウィルスが全体的な神経機能に深刻な変化をもたらすことはなく、感染から回復するにつれその影響は時間の経過とともに軽減されると期待されていますが、何カ月も味覚や嗅覚が戻らないという事例も多く報告されているのが現実です。
できれば感染しなくて済むように、気を付けましょう!
最後に、脳の回復力に関する面白い研究結果がニュースになっていたので紹介しておきます。
「脳の回復力を高めるために人々ができることがある」とは、感染が脳に及ぼす影響を研究しているパトリツィア・ヴァニーニ氏の言葉です。
「もともと一定数、他の人よりも回復力の高い人がいるかもしれないが、回復力には、誰もが学び、発達させることができる行動、思考、行為が含まれている」そうです。
つまり、社会的なつながりを形成したり維持したりすること、十分な栄養、睡眠、運動などの健康的なライフスタイルを取り入れること、必要なときに助けを求めることなど、物事を前向きにとらえ、健全な思考を取り入れることが重要である、と。
確かに、ポジティブな思いは脳を刺激し、回復力を養う最大の良薬になるのかも知れませんね。
2年も続いているコロナ禍で、気が滅入ることも多々あるかも知れませんが、ポジティブな思考を意識してコロナに負けない脳の健康を維持しましょう!
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