この記事は2022年5月15日に掲載した記事の再掲載です
星組、御園座公演『王家に捧ぐ歌-オペラ「アイーダ」より-』をようやく観ることができました。
この公演はそもそもチケットがま~ったく取れなかったので、早々に劇場での観劇をあきらめ、配信でゆっくり観る予定だったのですが、なんと!劇団から発表された配信日に仕事が…
「なんてこった」と絶望したあの冬の日。
スカステの初日&千秋楽映像だけで耐えしのぐこと3か月。待ちに待ったブルーレイが3日前にようやく私の手元にやって来ました!
でも平日はゆっくり観ている時間もなかったため、週末になってようやく念願の『王家に捧ぐ歌-オペラ「アイーダ」より-』を観ることができました!
しかも1日に2回も観たという…。
遅ればせながら、新しい時代のワイルド・ラダメスを堪能した感想やらいろいろを書いてみようと思います。
王家に捧ぐ歌の予備知識
この作品は、ヴェルディのオペラとして有名な「アイーダ」をモチーフにした宝塚のオリジナルバージョンとして、木村信司先生が脚本・演出を手掛けてた大作ミュージカルです。
古代エジプトを舞台に、エジプトの若き将軍ラダメスと、戦いによってエジプト軍に捕らえられ奴隷の身となったエチオピア王女・アイーダとの悲恋、そしてラダメスに思いを寄せるエジプト王ファラオの娘・アムネリスの女心がそこに絡み合いながら、ほぼ全編にわたり歌でつづられていきます。
今回が3度目の上演
初演は2003年の星組で、湖月わたるのトップお披露目公演として上演されました。ラダメスを湖月わたる、アイーダを2番手男役の安蘭けい、アムネリスをトップ娘役の檀れいが演じ、この作品は第58回芸術祭優秀賞を受賞しています。
その後、2015年には宙組・朝夏まなとのトップお披露目公演として再演され、このときはラダメスを朝夏まなと、アイーダをトップ娘役の実咲凛音、アムネリスを2番手娘役の伶美うららが演じています。
そして今回、星組トップスター・礼真琴を主演に、半端ない歌唱力で成功する予感しかしない 7年振りの再演となったわけですが… 皆様、ポスター見たとき衝撃でしたよねぇ。
このビジュアルが本当に『王家に捧ぐ歌』なのか?問題
ポスター画像 が宝塚歌劇団のホームページに公開されたとき、誰もが一瞬あたまの中に「?」を浮かべたことでしょうね。私も一瞬どころか何日もモヤモヤしていました。(笑)
王家と言えば、キンキン★ギラギラ★ジャラジャラ★アクセサリー なわけですよ、私の中では完全に。いや、初演、再演をご覧になっているすべての皆様の頭の中でもそうでしたよね?
それが、パッと目に飛び込んできたのはこっちゃん(礼真琴)の ワイルドに立ち上がった 金髪ロン毛 と まっ白!な衣装。
そして、私のあたまの中も まっ白。(笑)
こってこての古代エジプシャン・ビジュアルをイメージしていたので、フレンチロック風?のこっちゃんが飛び込んできてあたまの中が大混乱しました。
ちなみに、アイーダを演じるなこちゃん(舞空瞳)のビジュアルは「うん、こんな感じよね」でしたが。
でも、人間って慣れちゃうもんですね。いまや王家のビジュアルといえば、この ワイルド・ラダメス、こっちゃんスタイルが今の時代のスタンダードとして私の脳裏にインプットされつつあります。(笑)
2022年・星組版の主な配役
- ラダメス:礼 真琴(エジプトの若き将軍)
- アイーダ:舞空 瞳(エチオピアの王女-奴隷)
- アムネリス:有沙 瞳(エジプト王ファラオの娘)
- ファラオ:悠真 倫(エジプト王)
- ファトマ:白妙 なつ(エチオピア王家の女官-)
- ネセル:天寿 光希(神官長)
- アモナスロ:輝咲 玲央(エチオピア王)
- ケペル:天華 えま(ラダメスの戦友)
- ウバルド:極美 慎(アイーダの双子の兄)
- カマンテ:ひろ香 祐(エチオピア王家の元家臣)
- メレルカ:天飛 華音(ラダメスの戦友)
- サウフェ:碧海 さりお(エチオピア王家の元家臣)
- ヤナーイル:音咲 いつき(囚人)
- ヘレウ:朝水 りょう(神官)
- メウ:遥斗 勇帆(神官)
礼真琴の「魂の歌声」に涙腺崩壊、必至!
それぞれの配役に対する個々の感想は後述するとして、まずは全体の感想から書こうと思うのですが、そもそもテーマが壮大なメッセージを含んでいる作品なので、かつて湖月わたるヴァージョンを観たときにも感じることはたくさんありました。
前回観たのはもう随分昔のことなので、あまり細部を覚えていないのが正直なところではありますが、木村先生が描く特有の「愛」に対する奥深い表現や、「歴史は繰り返す」という全人類的なメッセージは強烈に印象に残っています。
あ、因みに再演の朝夏まなとヴァージョンは録画したまま未見、ブルーレイのプレーヤー本体の中で数年間眠り続けています… 。
時間があったら観てみようと思いつつ、あっという間に時が過ぎて今回の再々演が決まり、すでに礼真琴ヴァージョンを観てしまった今となっては、たぶん、あえて観ない気がします。(笑)
今回の再々演ヴァージョンは特に、過去の2公演とは別物になっているので、比較ではなく新作を観る感覚て率直な感想を書きます。
時代から時代へと誇らしく語れるように…
1幕の幕開きで「もう、4500年もこうして彷徨っている」「何も変わらず時間だけが過ぎていく」と、かつての戦いで命を落としたアイーダの兄・ウバルドや、その家臣たちが亡国を彷徨いながら語っているように、この舞台となっている古代エジプトの時代から現代に至るまで、人は変わらず戦いを繰り返し、いまこの瞬間も世界で新たな争いが繰り返されているのが現実です。
とてもタイムリーな上演となり、そのメッセージはひときわ強烈に胸に響いてきます。
みんな、一人ひとりがそれぞれの環境の中で自分の人生を必死に生きていて、この世から争いを無くすことなどできないだろうことは心のどこかで分かっていながら、それでも様々な愛のかたちを紡ぎながら、平和を求めて何千年もの時代を繰り返してきたんだな、と。
この作品に出てくる人々はあまりにも正直で、まっすぐで、良きにつけ悪しきにつけ自分の求める生き方を貫いています。
正直、客観的に見れば今の時代や社会の中では「こんな正直には生きれられるはずもない… 」と率直に思ってしまいますが、それでも気づくと「私にもなんかできる気がする!」と引き込まれていってしまっているのがこの作品のすごさでしょうね。
つまり、自分らしく生きること、自分に正直であることの大切さ、そして人と人が愛し合うことがこの世の平和をもたらすということの究極の姿を描いているということ。
究極から学ぶことはたくさんありますよね。
久しぶりに舞台を観ながら自然に涙が溢れた
作品の持つ力だけではなく、今回はそれよりも何よりも、作品の世界観を圧倒的な歌唱力で演じきった礼真琴の魂の歌声に完全に呑み込まれました。
こっちゃんの歌声はどの作品においても心地よく響きますが、時として芝居からかけ離れて、別次元で聴き惚れてしまうという事態を起こします。(笑)
実は、この作品を観る前までは、また「やっぱりこっちゃん、歌が上手いよね~」という感想だけで終わってしまったら残念だな~と心配していたのですが、そんな心配はすぐに吹っ飛びました!
作品の世界観とこっちゃんの芝居や歌声がガッツリとシンクロして、1幕ラストには涙腺が崩壊していました…。
ここ数年、あまりないことだったので自分でも驚いたのですが、すっかりラダメスの魂に心震わされて自然と涙が溢れてきたのです。
2幕で死に向かってゆくその姿にも、悲しいとか虚しいとかじゃなく、愛に満ちたラダメスのまっすぐな生きざまがとても潔く、心に突き刺さり… 何度も涙腺が崩壊しました。
こっちゃん、いつの間にこんな表現力を!?
これ、本公演で再演希望!!
もはや『New 王家に捧ぐ歌』がスタンダード
先行画像が公開されたときの「これじゃない!!」感が満載だったあの衝撃は忘れられませんが、全面リニューアルした『王家に捧ぐ歌』は結論として、大成功だったと思います!
衣装が軽くなった分、運動量がめちゃくちゃ増えたと出演者たちが語っていましたが、作品としてはう~んと魅力がアップしていますし、宝塚の財産として次の世代にも違和感なく受け継がれていくように思います。
さて、ここからは少し個々の感想を勝手気ままに綴ります。
ラダメス:礼 真琴
いろいろな意見はあるのだと思いますが、私にとっては今回のラダメス、文句なしです。
抜群の歌唱力、キレッキレのダンス、お芝居の表現力、こっちゃん、ほんとに「いつの間に?」でした。
これまでも、こっちゃんの舞台は劇場や配信などで毎公演観ていますが、お芝居の作品としては今回がいちばん好きかも。
将軍に指名される前、はじめの頃のハツラツとした野心家の青年ラダメスもキラキラして魅力的でしたが、徐々に運命に呑み込まれていく中で見せる苦悩や葛藤するラダメスがさらに魅力を放っています。
1幕ラストの超・有名な名曲『世界に求む-王家に捧げる歌』は圧巻です。
このシーンだけでもこの作品を観る価値は十分にあります。
あと個人的には、2幕でラダメスが裏切り者として処刑に向かうシーン、アムネリスとのやり取りに妙にジーンとしてしまいました。
ラダメスのアムネリスへのある意味「愛」を感じたというか。
ファラオとなったアムネリスが、裏切り者をかばってその立場を失うことがないよう、「是が非でも自分を処刑しなければならない」と。
もちろん、ラダメスにとってはそうすることがアイーダへの愛を信じ貫くことでもあり、アムネリスに対する最後通告でもあるわけですが、その裏に様々な愛の形が存在しているように感じました。
悲しい場面ですが、ラダメスの大きな愛を感じられる場面でもありましたね。
兎にも角にも、いや、しつこいですが、こっちゃんの 魂の歌声 は素晴らしいです!
感動します!ことばに吸い込まれます!画面で観ているだけでもこれだけ感動するんだから、生の舞台を観劇できた皆様はさぞかし… 。
羨ましすぎる。
ナウオンでも、こっちゃんの歌に聴き惚れていて、「出遅れする人続出」って言われてましたね、そういえば。
そーでしょ、そーでしょーよ。
コロナで公演回数も減ってしまって観れなかった人も沢山いると思うので、やっぱりこれ、本公演で再演してもらえませんかね???
ファン以外の皆さまも、ぜひスカステかなんかで放送された折には、こっちゃんの魂の歌声を体験してみて下さい!(笑)
アイーダ:舞空 瞳
アイーダという役のインパクトからいくと、なこちゃん(舞空瞳)はちょっとビジュアル的に可愛すぎたかな。でも、好演していたと思います。
歌は高音部がときどき不安定でしたが、概ね及第点。
アイーダって人は本当に正直でまっすぐで、とても素直な女性ですよね。
ただ、そうであるが故にラダメスとの秘密を父親に漏らしてしまい、結果的には自分たちを死へ追いやってしまうわけなので、とても愚かであるとも言えます。
なこちゃんのアイーダは強さの中にも愛らしさがあって、純粋にラダメスを愛しているのが伝わってきてホント可愛いです。
アイーダを演じるうえで、それが誉め言葉になるのかはわかりませんが…
私的には「あり」でした。
アムネリス:有沙 瞳
もうこの役は、今の星組においては有沙瞳、この人しかいないでしょう。
キリリとした気品ある綺麗なお顔立ち、地声の心地良さ、歌声、声量、芝居心、どれをとってもアムネリス様に適役でした。
ファラオの娘としての気高さは見事でしたし、その裏に秘めたる女心、ラダメスへの愛を手に入れられずもがく姿もとても素直に演じているように思いました。
一見するとアムネリスは気の強い女性と理解されがちですが、権力の座にあって守られているアムネリスは、実は「強くあるべき自分」と向き合おうと、必死でもがいている、とても弱い女性なんだろうなと感じます。
とはいえ、アムネリスもアイーダも立場は違えど、羨ましいほどにまっすぐ生きている女性ですよね。
余談ですが、みほちゃん(有沙瞳)が組替えで星組にやって来た時には、こっちゃんの嫁候補か?と思っていましたが、実のところ、こっちゃんの柔らかなお顔立ちと、みほちゃんのキリリとしたお顔立ちがどうにもミスマッチな気がしていたのです。
身長的にはなこちゃんよりバランスが良いのですが… こうして星組でのみほちゃんの活躍をみる限り、彼女は脇で輝くタイプかしら?と思えてきます。
何というか、放つ光が強すぎる感じ?
なので、このアムネリスという役はまさに適役!と思う一方で、これだけそこそこ歌えるみほちゃんと同じこの役を、かつてはビジュアル(だけ… 笑)担当の檀れいちゃんや伶美うららちゃんが演じていたことを思い出し… ことばを失った私です。
ファラオ:悠真 倫
これまでは箙かおるさんが演じてこられたファラオですが、今回 New ファラオ 誕生。
ナウオンでも皆さんが話していましたが、まりんさん(悠真倫)のファラオは、優しさに包まれてる感じが半端なく、包容力の塊ですね。
この人がエチオピアを攻め落とそうとしているなんて想像がつかない。(笑)
アイーダがいなければ、ラダメスはきっとアムネリスとすんなり結婚して、この優しいパパとうまくやっていったはず、と妄想してしまいます。
歌声も心地よく、すべてに愛が溢れていました… 。
ネセル:天寿 光希
私的には、みっきー(天寿光希)には、エチオピア王(アイーダの父親)アモナスロを演じてもらいたかったな~というのが素直な感想。
とはいえ、出てこればしっかり場をさらっていくのはさすがですね。
どんな役柄でも楽しんで演じているのがビシバシと伝わってくるのが、みっきーの良いところ。
退団が残念でなりません。
アモナスロ:輝咲 玲央
これまでの公演ではすべて、専科の一樹千尋さんが演じてこられましたが、ファラオと同じく今回初めてのメンバーチェンジです。
正直、輝咲玲央という人の芝居を意識して観たことがなかったので、「この人、誰?なんかお芝居うまいんですけど。」というのが最初の印象でした。
この作品の中で描かれているのは、エチオピアの敗戦で囚われの身になってからの場面がほとんどで、王様らしい振る舞いよりも「ボケたふり芝居」がメインです。(笑)
とはいえ、娘・アイーダを前に「実はボケたふりをしていただけだ」とばらし、アイーダにファラオ暗殺の片棒を担がせようとするシーンでは、エチオピア王として国を守ろうとする迫力を感じました。
そういえば、ナウオンで「ファラオと王様の違いはなんだろうと思っていたら、先生からエンペラーとキングの違いだと言われてなるほどと思った」というような話が出ていましたね。
エンペラーとキングの違い、わかるようでわからない人のために… Emperor とは神に選ばれ複数の国を統治する人、King とは基本的には世襲し一つの国を統治する人、です。
ウバルド:極美 慎
御園座でトップに次ぐ男役2番手の役をもらったきわみしん、勝負所でしたね。
観劇する前までは、どこか頼りなげだったかつての姿が頭をよぎり「こんな大役大丈夫?」と心配していましたが、1幕も、2幕も、きわみしんの語りで始まるという重責にも拘らず、幕開きから堂々たるもので成長を感じさせてくれました。
発声の仕方も工夫しているのかな?「がなる」ような難しいセリフ回しも違和感なくこなしていた印象です。
なんかいつまでも若手と思っちゃうけど、考えてみれば、もう研9? もう若手とは言えない学年になってるのか~。
でも、歌はまだまだ不安定なことが多くてドキドキする。(笑)
ビジュアルは文句なくカッコイイですね~。芝居もそうですが、フィナーレナンバーでほかのメンズと並んで踊っている姿は際立っていました。
まとめ
皆さんはこの作品からどんなメッセージを受け取ったでしょうか?
ラストシーンでアムネリスが語る言葉です。
聞きなさい。
私が生きている限り二度と戦いに挑んではいけません。
この命令の虚しさは十分に承知しています。
いつか人々は戦い始めるでしょう。
そして戦いはいつまでも続くでしょう。
しかし例え戦おうと、
戦いで傷つこうと、
我々は決して平和への希望を失ってはならないのです。
このセリフを聞いたとき、私は一瞬「え?この幕切れで戦いは続くとか、それ言っちゃうの?」と思いました。
でも、これが現実なんだなと。
希望さえ失わなければ、人は明日を夢見ることができるものなのかもしれません。
こっちゃん、星組の皆さん、大きな感動をありがとう!!
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